不貞行為で証拠を取得した場合の平均的な慰謝料の額

パートナーの不貞行為は、著しく配偶者の心を傷つけます。

不倫や浮気は刑法に問われるような、いわゆる「犯罪」ではありません。

しかし、民法第752条は「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めており、これにより夫婦お互いの「貞節」が義務付けられていると解釈されています。

つまり、民法上では不倫や浮気は「不法行為」ということになります。

慰謝料とは?

夫が浮気をしています。わたしは許す気がないので、すっぱり離婚しようと思っています。

ところで、離婚する場合、夫に慰謝料が請求できますよね?

今後の生活の不安はもちろんありますし、やはりこの「許せない」気持ちをなんとかしたいです。

だいたい、わたしのようなケースの場合、どれくらいの慰謝料を請求できるんでしょうか?

~大塚S美さん(42歳主婦:高槻市)

では、そもそも「慰謝料」とは何でしょうか。

民法 第710条(財産以外の損害の賠償)

他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

よく、「損害賠償」という言葉を耳にしますよね。

たとえば、債務不履行などで金銭的な損害を与えられた場合(民法415条)や、物質的・金銭的な損害を与えられた場合(民法709条)、損害賠償を請求することができます。

これらはお金の損害や、モノの損害に対して請求するものです。

これに対して「慰謝料」とは上記の民法第710条が定めるとおり、「財産以外の損害」に対して請求するもの。

財産以外の損害とは、名誉毀損や精神的苦痛を指します。

つまり、その人の人格や、気持ちに対する損害です。

不貞行為に関しては精神的苦痛への損害賠償が「慰謝料」ということになります。

損害賠償の場合は失われた財産や金銭、もしくは履行されなかった金銭取引という賠償額の目安がありますが、精神的苦痛というものは個人の状況や捉え方などによって全く変わってくるため、基準となるものがありません。

そのため、不貞行為の裁判においても、請求できる金額は50万円~300万円とかなり大きな開きがあることが実情です。

離婚原因慰謝料と離婚自体慰謝料

50万~300万円?

それって、あまりにも範囲が広すぎません?

慰謝料金額の目安がつかないと、離婚調停するのにも不安です…

~S美さん

そうですね。これではあまりにも話がざっくりしすぎています。

ではまず、慰謝料の中身についてご説明します。

離婚の場合の慰謝料には2種類の慰謝料が存在します。

ひとつは離婚原因慰謝料で、これは離婚に至るまでパートナーに与えられた精神的苦痛について請求するもの。つまり、S子さんの場合だと、ご主人の浮気によって苦しめられたことに対して請求できる慰謝料です。

もう一つは離婚後、その後の生活が経済的な要因などから苦しくなることについて請求できる離婚自体慰謝料です。S子さんが不安に感じておられるように、ご主人と離婚したあと、生活していくためにはお金が必要です。そのために支払われる慰謝料のことです。

これらの2つを合わせたものが、いわゆる「慰謝料」となります。

それでは、離婚原因慰謝料で請求できる金額ごとのケースを見ていきましょう。

慰謝料200万~300万円。最高500万円の場合…最終的に離婚が成立したかどうかが基準

最終的に「離婚」が成立した場合、慰謝料は相場の最大になる可能性が高いです。

S子さんのように離婚を決意しておられる方は、このケースにあてはまります。

一般的に不貞行為を問う裁判では、その結果夫婦が「離婚した」という結論をもって高額な慰謝料が課せられることがふつうです。

逆に言うと、「離婚しない」という結論を選んだ場合、慰謝料は少なくなってしまいます。

離婚が成立すること自体、大きな「精神的苦痛」と言えますが、こうしたケースにさまざまな要素が加わり配偶者に与える「苦痛」が大きいと判断されるほど、金額は大きくなります。

たとえば…

・浮気相手と互いに協力して不倫の事実を隠していた場合。

・不倫相手との間に子供を設けており、配偶者にこれを隠していた場合。

・浮気の期間が著しく長い、または短期間でも回数が多い場合。

・以前に浮気をした配偶者が、性懲りもなくまた同じように浮気した場合。

・離婚に至る話し合いのなかでも、まったく反省が見られない場合。

・配偶者の不貞行為が原因で、うつ病などの精神疾患を発症した場合。

こうした悪質なケースでは、それを立証する証拠がしっかりしていれば高額な慰謝料を請求することが可能です。

裁判の課程で配偶者が確たる証拠を突きつけられても、まったくその事実を否定するために虚偽の証言を続けたりした場合も、その偽証により慰謝料の請求額は大きくなります。

このあたりは、その他の裁判と変わりません。

また、パートナーだけではなく不貞行為の相手に対しても慰謝料を請求することが可能です。

浮気相手に慰謝料が請求できる条件は、

・相手が既婚者だと知りつつ関係を続けてきた場合。

・積極的に不貞行為を繰り返してきた場合。

・故意に原告夫婦の婚姻関係を破綻させようという悪意があった場合。

などです。このような場合は不貞行為における浮気相手の悪質さが問題になります。

交際相手が既婚者であると知っていることが明らかな場合とは、つまり浮気相手が夫婦共通の知人であったり、配偶者の勤め先などに勤務する人間であったりするケースということになります。

「あの人には奥さんがいるけど、不倫しよう」

という積極的な意思があったら、浮気が家庭に対して与えるダメージを想像できないか、もしくはダメージを与えることをわかっていてやっているわけです。

これは悪質ですよね?

本人がいかにしらを切ろうとも、「常識的に考えて」自分の交際相手が既婚者であることは容易に想像できたであろう場合も、このケースに当てはまります。

こうなると、浮気相手からも慰謝料を請求できることになります。

だいたい300万円あたりが上限とされている慰謝料ですが、不貞行為を働いた配偶者、およびその浮気相手から請求することで、金額は合計で500万円を超えることになります。

慰謝料100万~200万円の場合…別居した場合

つまり、パートナーの浮気が原因で別居した場合です。

前の段落で離婚したケースについて述べましたが、そこまで至らない場合は、慰謝料の額もそれに応じたものになります。慰謝料はだいたい100万円~200万円が相場となっています。

慰謝料の話とは別ですが…

いきなり離婚を決断する前にちょっと冷静になって、別居してみるのは悪いことではありません。

そこから関係回復の可能性を考えることもできます。

一時離れて暮らすことでお互いの関係を見つめ直すことも、長い夫婦生活、ときには必要ではないでしょうか。

慰謝料~50万円の場合…離婚にも別居にも至らない場合

離婚もせず、パートナーとの婚姻関係を続けたまま慰謝料を請求することも可能です。

しかし、その際はやはり金額は限られたものとなります。

裁判で問われるのは客観的な「精神的苦痛」であるため、不貞を働いた相手となお婚姻関係を続けたいと考える場合、その「苦痛」は少ないと判断されるのは常識的な観点から見ても仕方のないことです。

また、この場合は夫とこれまでどおりの生活を続けるわけなので、離婚後の生活に対して支払われる離婚自体慰謝料は、もちろん請求できません。

もとより、同じ世帯に暮らす夫から慰謝料を請求しても、家庭内でお金が移動するだけなので、意義は少ないと言えます。

離婚自体慰謝料の計算式のようなものはあるのか? 目安となるような数字は?

わたしの場合、離婚を決意しているので高額な慰謝料が期待できるのはわかりました。

でもこれからの人生に関わる大切なお金なので、もう少し明確に、どれくらいの慰謝料が期待できるのか、事前に知ることはできないでしょうか?

~S美さん

確かに、前段で説明した金額でもまだまだざっくりしていますね。

それでは、離婚後の生活の苦しさに対して請求できる離婚自体慰謝料の目安を見ていきましょう。

人の生活環境はそれぞれで、浮気や離婚の状況も千差万別。

それがどのように裁判で認められるかもケースバイケースなので、「どれくらい慰謝料を請求できるのか」を事前に知ることができるような公式の計算式は存在しないのが事実です。

とはいえ、弁護士や司法書士などの専門家に相談した際に、どれだけの慰謝料が請求できるのかまったく見当もつかないようでは困りますので、業界内で共有されている計算式は存在します。

【基本慰謝料120万+相手の年収の3% × 実質的婚姻年数】 × 有責度 ×調整係数

これは過去に東京弁護士会が使用していた計算式とされており、現在の裁判所はこの数式に基づいて慰謝料を決めているわけではないのでご注意ください。

基本的に、「実質的婚姻年数」が長ければ長いほど慰謝料の額は大きくなります。

つまり、結婚していた期間が長いほど慰謝料は高くなり、短いと少なくなるということです。

また、「有責度」とは、パートナーが「どれだけ悪いか」を示すものです。

完全に相手に非があり、悪質な場合(不貞行為の場合はだいたいそうですが)は「1」として計算されます。相手の悪質度や、浮気に至るまでの状況を鑑みて0.2~0.9までに推移します。

また、「調整係数」は離婚したあとの配偶者の生活困難を現したもの。

配偶者の状況やこれまでの経歴を鑑みて、0.7~1.3の数値で推移します。

・共働きであり、配偶者と同様の収入がある……0.7

・共働きだが、配偶者ほどの収入はない  ……0.9

・現在、働いていないが、これから職につく予定とあてがある……1.1

・就業経験がなく、これからも職につくあてはない……1.3

裁判の結果、離婚したかどうかで慰謝料の額が大きく変わってくる…と前述しましたが、離婚せずに婚姻関係を続ける場合は、この調整係数は「0」になります。

先述しましたが、離婚という結果を選ばない場合、あたり前ですが離婚自体慰謝料は請求できません。

浮気した主人の年収はだいたい600万円くらい。

わたしたちは結婚歴15年です。

主人が浮気したことを考えると「有責度1(不貞行為)」ということですね。

わたしは専業主婦で、今のところ働くあてがありません。

…ということは…

~S美さん

【基本慰謝料120万+相手の年収の3% =24万円× 実質的婚姻年数=15】 × 有責度=1 ×調整係数=1.3=516万円

この金額に加え、離婚原因慰謝料として300万円の請求が認められたとした場合、これら二種類の慰謝料を合算すると、S美さんが請求できる金額は816万円ということになります。

くれぐれも、この金額は目安です。

弁護士などの専門家とご相談のうえ、慰謝料の金額を計算してください。

さまざまな事情が慰謝料の増減を決めます。

主人の浮気については、いろんなことがわかっています。

まず、主人の浮気相手は会社の新入社員の女性で、まだ20代だということ。

それに、浮気は彼女が入社した年から続いているようなので、3年以上にはなります。

一度、浮気に気づいたとき、そのことを咎めたのですが、「すぐに別れる」と言ったくせに、関係は続いているようです…子供はまだ小学校低学年。夫婦の揉め事で、子供に悪影響が出ないか…

ほんとうにつらい毎日です。

~S美さん

S美さんのようなケースの場合、慰謝料はかなり増額できると見込んでいいでしょう。

上の計算式でも示しましたが、結婚期間が長ければ長いほど、離婚自体慰謝料は高額なものになります。その他にも、夫婦の事情、および浮気の状況などさまざまな要素が慰謝料の金額を左右します。

・浮気相手の年齢と、配偶者の年齢

たとえば浮気した配偶者が40代後半から50代の中高年で、浮気相手が20代前半の女性だった場合、浮気は主導的に配偶者のほうが行ったと見られ、慰謝料は高くなります。

・浮気を行っていた期間

浮気を行っていた期間が長ければ長いほど慰謝料は高額になります。そのぶんパートナーに与えた精神的苦痛が大きいと認定されるためです。

また、期間が短くても不貞行為の回数が集中的で多い場合も、悪質と考えられます。

・浮気が発覚したあとの不誠実さ

浮気が発覚した時点でパートナーに事実を問いただされ、「別れる」と約束したのにずるずると関係を続けていたような場合も、裁判となれば当然、慰謝料の額は上がります。

・夫婦に子どもがいた場合、その年齢

浮気による離婚など、繊細な子どもたちには非常に影響が大きいものです。一般的に子どもの年齢が低ければ低いほど、子どもへの悪影響も強いと考えられます。また、夫婦で子育てを協力していかねばならない状況でパートナーが不貞行為を働いたとなれば、配偶者に対する精神的苦痛は大きいと判断されるのが通常です。

・パートナーの年収や資産、社会的地位

離婚自体慰謝料を決める上の計算式でもパートナーの年収は大きな要素でしたが、その資産に対して慰謝料が少なすぎる場合、社会的に不貞は軽いものと認識され、再び繰り返す可能性も高くなります。裁判では全体的な資産や社会的地位も判断の要素となります。

・浮気相手の悪意

たとえば浮気相手が意図して子どもを作り、結婚生活を破綻させることを企んだような場合は、相手に請求する慰謝料は増額されます。

・暴力があった場合

不貞を咎められた配偶者が暴力を振るったり虐待したりした場合、これは論外ですので慰謝料は増額になります。けがをした場合は診断書を、それ以外にもいつどんな暴力があったのか、細かく記録しておくとさらに効果的です。

かなりの条件がうちの主人に当てはまりますね!

社会的地位や資産は人並みだし、浮気相手もそこまで悪質ではないし、DVなどもないですが…

それにしても法律的に、主人の浮気はかなり「重罪」だと言うことがわかりました。

ますます許せなくなってきました!

~S美さん

お怒りはごもっともです。

慰謝料の決定には数多くの判断要素があります。

一人ひとりのケースに応じた裁判の戦略があるので、ぜひ弁護士などの専門家にご相談ください。

不貞行為で慰謝料が取れないケースもあります。ご注意を!

また、まったく慰謝料が請求できないようなケースもあります。

先述したように、不貞行為までに夫婦関係が完全に破綻し、別居状態がずっと続いていたようなケースでは、最悪の場合、請求できる慰謝料がゼロになるケースもありえます。

それ以外には、下のようなケースが考えられます。

・浮気相手がパートナーを既婚者だと全く知らなかった場合

この場合、浮気相手から慰謝料を取ることはできません。浮気相手は「浮気」そのものをしているつもりがなかったことになるので、仕方のないことです。パートナーからの慰謝料しか望めません。

・慰謝料請求の時効が過ぎてしまった場合

法律が不貞行為を認めるのにも、時効が存在します。あなたがパートナーの浮気を知ってから3年以内、もしくはパートナーが夫婦生活外に他人と関係を持ち始めて20年以内がリミットとなっています。不貞の兆候や気配を感じたら、できるだけ早い専門家への相談をおすすめします。

・パートナー、もしくは浮気相手から十分な慰謝料を得ていた場合

この場合は裁判により、すでに離婚が決まり、元パートナーから慰謝料を得ていたケースが当てはまります。

離婚後、改めて裁判で浮気相手から慰謝料を請求しようとしても認められません。

離婚裁判時にパートナーと浮気相手、双方に慰謝料を請求することは可能ですが、離婚裁判が終結すると、その事案はもう閉じられてしまうからです。

同様に浮気相手から十分な慰謝料を得た後も婚姻関係を続け、結果夫婦関係がこじれてしまった結果、もう一度パートナーから慰謝料を請求することも不可能です。

・風俗通いの場合

基本的に風俗に従事する人々は仕事としてあなたのパートナーと関係を持つので、「浮気相手」として風俗関連職の人々を訴えて慰謝料を請求することはできません。

パートナーに対しては慰謝料を請求することはできますが、「何度も風俗通いをやめるように言ったのに聞かなかった」というような場合やそれが原因で離婚に至ったという場合以外は、高額な慰謝料は望めません。

・パートナーと相手の間に、肉体関係がなかった場合

これは稀なケースですが、パートナーと相手がデートしていた、キスをしていた…ということがあっても、二人の間に肉体関係があった明確な証拠がなければ、パートナーにも相手にも慰謝料を請求することができません。つまり、二人揃ってラブホテルに入っていった、などその事実を客観的に裏付けることができないと、慰謝料は請求できないのです。

だいたいは理解できますが、風俗通いは高額な慰謝料請求の対象にならないんですか?

…なんだか女性として納得いきませんが。

それにしても気になるのは最後の「肉体関係がなかった場合」です。

デートして、キスして、「肉体関係がなかった」?

いい大人同士の男女のつきあいに、そんなことあり得るのでしょうか?

~ S美さん

あり得ないとは言い切れませんが、これはあくまで「肉体関係があった」という証拠がつかめなかった場合の話です。

妻子ある男性がほかの女性とデートしたりキスしていたりするなら、「肉体関係がある」という疑いがかなり濃厚であると言えるでしょう。

しかし、それを証明するためには「証拠」が必要なのです

慰謝料を請求するために必要なのは、確かな証拠。

慰謝料は法律にもとづいた判断によって決定されます。

請求できるかできないか、もしできるとするならその額はどれくらいになるのか? 

…これらはすべて、どれだけパートナーの不貞を客観的に証明できるかに掛かっています。

逆に言うなら、パートナーの不貞行為=浮気相手の肉体関係を裏付ける証拠がないと、慰謝料を請求できないのが実情です。

いずれにせよ、パートナーの不貞を感じたら、一人で悩まないことです。

弁護士や行政書士などの法律の専門家、または浮気調査を専門に扱う調査会社などに相談することをおすすめします。

本格的な調査が必要なのかどうかも含めて、相談できる社会リソースはたくさんあります。

不安や疑心暗鬼のままにとどめず、ぜひ専門家に相談してください。

辛い道のりかもしれませんが、S美さんを含め、悩める女性すべての方が今より幸せになれることを願っています。