
離婚には原因が必要。法律が認める離婚の原因・理由とは?
悲しいことですが、夫婦生活には「もうこれ以上パートナーと暮らしていくことができない」と判断するしかないときがあります。
夫婦ともに歩んだ人生を顧みて、幸せだったときや楽しかったことを思い出してみても、それでもやはり、これ以上ともに歩んでいくことは困難だと思わざるを得ないとき。元の夫婦には戻れない、関係回復は絶望的だと判断を下すとき…
それが「離婚」を考える瞬間です。
100組夫婦があれば、それぞれ100組の夫婦生活があります。そのため、「離婚」の原因となることは夫婦によってさまざまです。
しかし、「離婚」というのはあくまで法律の承認のもとで夫婦という関係を解消するということ。
夫婦とはいえ他人同士であり、その価値観の違いこそがそもそもの離婚原因になることが多いわけですが、こと「離婚」に関しても片方が「離婚に足る」と思う原因を、もう片方が認めない、ということは往々にしてあります。
そして、「離婚」の合意が得られない場合は、その正当性を協議や調停、裁判で争うことになります。
では、法律で認められる離婚の理由とは一体どんなものでしょうか。
「性格の不一致」における協議離婚の場合~基本的に本人同士の問題
結婚して2年目です。子供はまだいません。
主人はIT関係の仕事をしており、わたしは結婚前から勤めていた出版社で働いています。
結婚1年目はそれぞれの仕事を尊重し、家事なども分担していたのですが…
2年目以降、主人は仕事に没頭するあまり、あまり家庭を省みないうようになりました。
さらに、「これから子供を作るんだから、君には仕事を辞めて家庭を守ってほしい」というようなことも言うようになって…
これから子供を作るとして、主人が子育てや家事をすべてわたしに押し付けることは目に見えています。
ときどき、「離婚」という2文字が頭に浮かぶ毎日です…
~三原K菜さん(大阪市:29歳・会社員)
現在、離婚原因で最も多いとされているものは「性格の不一致」というもの。
K菜さん夫婦はまさに、「性格の不一致」に悩まれているようですね。
実は近年、国内で離婚する夫婦の約6割近くが「性格の不一致」を理由に離婚しています。
このようなケースの場合は、お互い話し合った上で離婚に合意することが多いです。
夫婦が婚姻関係を続けていくことに限界を感じ、それぞれが納得しながら離婚届に署名・捺印し、届け出る、それだけです。
民法 第763条
夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
この当人同士の話し合いに基づく離婚を「協議離婚」と言います。
多くの国では、協議離婚は役所や家庭裁判所での意思確認手続きが必要となりますが、日本は本人同士の合意と届出だけで離婚が成立します。
他国に比べて協議離婚のハードルは異例なほど低く、国内の離婚の90%がこの協議離婚です。
それではこの離婚理由となる「性格の不一致」にはK菜さんのケース以外にどんな理由があるでしょうか。
価値観のミスマッチが「性格の不一致」のもと
具体的には、パートナーのいずれかが生活に対してあまりにもルーズであったり、逆にあまりにも几帳面であったりする場合などはよく「性格の不一致」が生じやすいと言えます。
つまり、夫婦それぞれが「夫婦生活とはこういうものだ」と思っていた「価値観」にミスマッチが生じてくることが「性格の不一致」につながります。
たとえば、性生活に対する考え方や嗜好の違い。金銭感覚の違い。あるいは、子どもの教育に対する方針の違い。それぞれの実家に対する考えの違いなど…
夫婦にさまざまな考えや価値観の違いが生じてくることは自然なことです。
しかし、最悪の場合、こうしたことの積み重ねが夫婦生活の破綻につながってしまいます。
お互いに「もう、これ以上結婚生活はムリ」という認識のもと協議離婚する場合は、先述したように特別な法律の手続きは必要ありません。
ただ問題は、パートナーのうちいずれかが、離婚に対して同意しない場合です。
思い切って、主人に離婚を申し出てみました。
本人はあっけにとられ、「なんで愛し合ってるのに離婚しなきゃなんないんだ?」と、いささか憤慨気味です。「絶対に離婚はしない。君は勝手すぎる」とまで言われました。
そんな主人の狼狽ぶりを見て、“ああ、ますますこの人とはもうやっていけない…”と思うようになりました。どうすれば主人と離婚できるでしょうか?
~K菜さん
ここで重要なのは、この段階でパートナーの片方が「性格の不一致」を訴えたとしても、他方がそれを認めない場合、それは離婚の理由になり得ないということです。
この場合、夫婦は双方の合意を求めて法の判断を仰ぐことになります。
家庭裁判所を通した調停のもとに行われる離婚を「調停離婚」と言います。
ここで話が収まらない場合、さらに裁判で離婚の是非を問う「裁判離婚」に発展します。
基本的に、「性格の不一致」を原因とする離婚においては、お互いに結婚生活の継続を不可能にした理由があるので、慰謝料は発生しません。
どのような理由が離婚事由となるか?~裁判で争われる5つのケース
それでは、裁判で「離婚に相当する」と認められる離婚原因にはどんなものがあるのでしょうか。法律では、このように定められています。
民法 第770条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。7
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
不貞行為
今年40歳になる主婦です。
2つ年上の主人が、出会い系サイトで知り合った女性と浮気しました。
相手は35歳の未婚女性。主人は浮気を認め、「二度としない」と言っていますが、実は浮気はこれで3回目です。今後こそ許しません。
離婚しようと思っています。
~上原M理子さん(大東市:40歳・主婦)
まず、「配偶者に不貞な行為があったとき」ですが、これはいわゆる浮気・不倫を指します。
民法第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法により、夫婦の間には「貞操義務」があるとされています。
つまり、民法上、浮気は「不法行為」ですので、裁判でその事実が確認されると、訴えを受けた側には賠償責任が生じます。
ここで重要なのは、裁判における「不貞行為」の認定には、それを裏付ける確かな証拠が必要であること。
裁判で相手の不貞行為をどれだけ客観的に証明できるかが、慰謝料請求の大きな鍵となります。
M理子さんの場合はご主人が浮気を認めているとのことですが、そうではない場合、浮気の事実の証拠収集が必要です。
その場合は調査会社などの専門家に相談しましょう。
悪意の遺棄
あまりにもひどいと思います。
結婚して10年の主人は自営業ですが、どうも外に愛人を作っているようです。
そればかりか愛人宅にいりびたり、まったく家に帰ってきません。
その状態になってからしばらくの間、生活費くらいは振り込んでくれたのですが、それすらなくなりました。これ以上、あの人と夫婦関係を続けていくことの意義がわかりません…
~大島R子さん(三宮市:38歳・主婦)
これはひどい話ですね。
まさに「悪意の遺棄」に相当するケースです。
「悪意による遺棄」とは、夫婦が円満に生活を続けていくうえで、双方のパートナーに課せられた3つの義務を果たさないことを指します。
まず、「同居義務」。
夫婦は基本的に一緒に住まなければならない、という考え方に基づいています。しかし、実際に別居というかたちで婚姻関係を残したまま、一緒に暮らさないという選択をしている夫婦も存在することがわかるように、「一緒に暮らさない」こと自体は法的にも問題ありません。しかし、パートナーのうちいずれかが一方的に正当な理由もなく一緒に生活しないという場合、これは離婚理由となります。
次に、「協力義務」。
夫婦生活はお互いの協力あって成り立つものです。金銭的な協力はもちろん、家事や子どもの世話に関しても、いずれかが一方に押し付け、まったく協力しないのであれば、これも離婚の理由となりえます。
最後に「扶助義務」。
これは夫婦のうちいずれかが助けが必要なとき、パートナーはそれを助けなければならない、ということです。例えばパートナー自身が病気や怪我で生活が困難になったとき、相手はそれを助けてこれまでどおりの生活を送ることができるよう努力する義務を負います。
こうした「義務」を配偶者のうちいずれかが果たさない、ということは夫婦生活を営む上で、程度の差こそあれ大なり小なり起こり得ることです。
しかし裁判で争点になるのは、問題行動に「正当な理由がない」ということ。
個々の事情はありますが、あまりにも身勝手に夫婦間で果たすべき役割を片方が放棄した場合は、裁判でもそれが「悪意の遺棄」として認定されます。
R子さんのケースはまさにおれに当てはまります。
この場合も不貞行為のときと同様、どれだけ客観的に相手側の行動に「正当性がないか」を示すことができるかどうかが重要です。
もっともR子さんの場合、ご主人の無責任さは悪質きわまりなく、さらに不貞行為の問題もあります。高額な慰謝料の請求が見込めますので、弁護士にご相談になることを強くおすすめします。
3年以上の生死不明
途方にくれています。
主人が失踪して、4年が経ちました。
ある日の朝、会社に出かけたきり、まったく行方がわからなくなったのです。
もちろん、警察にも相談し、捜索願を出しました。しかし、何の手がかりもありません。
6歳の娘とともに実家に戻り、主人からの連絡や警察からの報告を待つ日々が続きましたが…
もう本当に疲れ果ててしまいました。
主人が所在不明な場合、離婚することはできますか?
~山尾T恵さん(豊中市:36歳・主婦)
とてもお気の毒なケースです。
この4年間、本当に大変だったことと思います。
結論から言いますと、所在不明になった配偶者と離婚することは可能です。
配偶者が7年以上行方不明になり、生きているかどうかわからない状態が続いた場合は、家庭裁判所で「失踪宣告」を受け、死亡扱いにすることができます。
ただ、それ以前に行方不明・音信不通状態が3年以上続けば、離婚裁判を行うことで離婚を成立させることができます。
ふつう、離婚裁判には双方の調停が必要ですが、T恵さんのように、ご主人が生きているのか亡くなっているのかまるでわからないまま3年以上、行方知れずになっている場合は、相手側の調停が不可能です。
なので、裁判所が公示(裁判所前の掲示など)で先方に通達したこととして、調停を成立させます。
裁判では「3年以上の生死不明」を立証するための材料として、警察に捜索願を出していることを証明する「捜索願受理証明」や、知人や家族などの陳情書、裁判を起こす原告の日記やメール記録などが必要となります。
T恵さんの場合は、改めて警察から「捜索願受理証明」を発行してもらい、ご実家の方やご主人のご実家の方々、お知り合いの方などに陳情書を書いてもらうのがいいでしょう。
また、日記やご主人の行方を探すためのメールの記録などがあれば、なお安心です。
また、3年間行方不明であっても生きていることが分かっている場合(たまに電話や手紙が来る場合など)は、この条件に相当しないので注意してください。
回復の見込みのない強度の精神病
55歳の主人は40代からひどい双極性障害を患い、40代半ばからまったく働けないようになりました。その後、わたしがパートに出て、なんとか主人の回復を支えようと苦労し続けてきましたが、毎年のように繰り返す気分の激しい移り変わりに、まったく回復の兆しは見えません。
うつ状態のときはまだいいのですが、躁状態になったときはとても暴力的になり、何度か殴られたこともあります。病気のせいだということで、これまで強引に自分を納得させてきたのですが…
主治医の先生に相談しましたが、「気長に回復を待ってください」の一言。
このままではわたしの精神が参ってしまいそうです。
病気を理由に、主人と離婚することは可能でしょうか?
~田村H美さん(堺市:53歳・パート)
非常につらいケースです。
心を患った患者自身も大変ですが、その家族、とくに奥さんに掛かる負担はあまりにも大きすぎます。
配偶者が統合失調症やアルツハイマー病、双極性障害など強度の精神病にかかり、回復が望めない場合は、裁判所への離婚申し立てができることになっています。
「回復の見込みがない」という判断は当然、医師によって行われますが、配偶者の主治医が必ずそう判断するわけではないので、複数の医師による診断が求められることがあります。
ただ、民法第752条は夫婦間の「扶助義務」を定めており、片方が病気の場合は夫婦ともに助け合うべきとしているため、実際に離婚を成立させるのはかなり困難であると言えます。
しかし、まったく望みがないわけではありません。
また離婚を申し立てた配偶者がどれだけ誠実に看護してきたか、今後病人が生活していくうえでの配慮があるか、といったことが結論を出すにあたって考慮されます。
しかし、離婚が認められた判例も少ないケースであることは事実なので、複数の精神科医やカウンセラーなどの精神医療の専門家、および弁護士との入念な相談をおすすめします。
また、役所を通じて社会福祉士や精神保健福祉士に相談してみるのも有効でしょう。
その他婚姻を継続し難い重大な事由
【1】~【4】までの理由に当てはまらない何らかの事情で、夫婦関係が完全に破綻し、もう回復の見込みがないと判断された場合、離婚が認められることになります。
最初に挙げた、国内離婚理由の90%を占める「性格の不一致」による離婚も、この理由に該当します。ただ、「性格の不一致」による離婚のほとんどは裁判を伴わない協議離婚ですが、それ以外の理由によるもので配偶者の一方に原因がある場合、離婚が認められます。
具体的な例としては、
・暴力・虐待
いわゆるDVです。精神的な暴力(侮辱)もこれに含まれます。裁判では暴力によるけがの診断書、暴言などを録音した音源が貴重な証拠となりますので、準備が必要です。
肉体的暴力は、そのまま刑事告発できる立派な犯罪でもあります。
・性生活上の問題
性生活において、パートナーが同意しないような行為を相手が継続して強要するような場合、ふつうの性交渉をパートナーが頑なに拒否するような場合、あるいは性不能が続き、その不満から互いに婚姻生活が継続できない場合、これは離婚の理由として認められます。
・親族との不和
夫婦生活においてそれぞれの親や親族との関係は重要ですが、これが負担になり、トラブルを生むことは多々あります。そうしたトラブルにおいて配偶者が結婚生活よりも親族との関係を重んじることが続けるような場合、夫婦生活の継続は困難となります。
・その他
配偶者がギャンブルに入れ込んで夫婦生活を犠牲にするほどの浪費をする場合、犯罪により服役した場合、また宗教活動に過剰に入れ込んでいる場合など、いずれも「婚姻関係の継続」が不可能と判断するに足る理由がある場合は、裁判で離婚を問うことができます。
ここでも裁判では、客観的に「夫婦生活の継続が困難」であり「回復が望めない」と立証する必要があるため、第三者に説明できる証拠が必要となります。
また、これらのことを理由に別居していること、またその別居期間の長さなども裁判では争点になります。
まとめ 離婚の原因とは? 離婚に踏み出す勇気について。
離婚理由のなかで最も多数を占める「性格の不一致」は、お互いの価値観や結婚観の相違から生じてくるもので、これは新婚夫婦に多く見られる離婚原因です。
ただ、「性格の不一致」そのものが離婚原因にならなくとも、そこから夫婦間にズレが生じ、関係が悪化していくことから、不貞行為や悪意の遺棄といった、法律で定義されている離婚理由にまで発展してしまうことはよくあることです。
夫婦で価値観を共有していくための努力は必要ですが、一度すれ違ってしまうと、関係を回復させるために必要以上の努力を強いられ、互いに夫婦生活を継続していくことが幸福ではなく重圧になってしまうこともあります。
まして、不貞行為や暴力といった問題を抱えている夫婦にとっては、結婚生活の継続そのものが不幸であると言っても過言ではありません。
離婚は結婚生活の悲しい結末ですが、破綻しきった結婚生活を継続させるために夫婦が、もしくはいずれかの配偶者がただひたすらに消耗し、時間を浪費していくことはやはり不幸です。
子どもがいる場合、互いの親族への気遣い、経済的な問題など、離婚の障壁となる課題は数多くあります。
しかし、終わる望みのない不幸にとどまっていることは、ほんとうに慎重な選択の結果と言えるでしょうか。
離婚を決意し、踏み出すことで新たな人生や未来が開けてくることもあります。
離婚が成立するまでに困難もありますが、自分の人生の選択肢に「離婚」があることは排除せず、つねに自分がいかによく生きるか、ということを考えることが大切です。
裁判で離婚を争うためにはそれなりの準備が必要。
離婚を成立させるために必要な証拠や、司法の判断材料となるような情報の整理をするためには、専門家の助言が必要になります。
「離婚」という選択が本当にあなたの人生の幸福に結びつくものなのか、という前提も含めて、相談に乗る専門家がいます。
結婚の未来に不安を感じたら、必ず弁護士やカウンセラーなどの専門家にご相談ください。